より良い保育を求めて
〜横浜文化保育園とのふれあい交流保育を始めるにあたって〜


                                                  ぜんりんかん幼稚園 丸岡 隆


1.出会い

 人は社会の中に生まれ、その中で成長して人間になる。社会は人間によって構成されているのであるが、その社会が人に影響を与え社会の構成員としてふさわしい人間をつくるのである。人が生まれながらにして社会に所属しているということをもう少し具体的にいうならば、それは集団の中に生まれその中で生活するということである。集団とは人間関係の場のことであり、人は、その人間関係の網の目の1つに組み込まれて存在するのである。
 ところで、人が生まれた時、そこにはすでに集団が存在している。人は好むと好まざるにかかわらず、宿命的に1つの集団に組み込まれる。その1番はじめの集団が家族という集団である。それは、夫婦という彼にとっては父母にあたる者と、場合によってはきょうだいにあたる兄や姉で構成されている。その中で、彼はまず子どもとして、また弟あるいは妹としての位置を与えられるのである。しかし、やがて彼にとって、集団は親戚関係、近隣関係へと拡がり、保育園や幼稚園・学校へと発展していくわけである。そして、そうした集団の拡大こそは、すべて彼にとって、はじめての出会いとなるわけである。



2.社会化

 人が人間社会の一員として成長する過程を、心理学では普通、社会化の過程と呼んでいる。社会化の過程は、また、同時に社会性育成の過程とみることもできるが、こうした社会性が、基本的には人と人との相互作用の場で形成されることは明らかである。社会性の概念の中には、社会的規範や制度を正しく理解し、意志を交換しあう能力や、礼儀、公共心、責任感などの社会生活上の技術的な側面が含まれており、そうした実践的な行為のあり方こそが社会性の最も基本的な条件でなければならない。
 一般に、2歳以後、幼児は歩行能力を完成させ、これに関連して依存から自立の方向へとすすむわけであるが、特に身辺自立の完成や移動能力、手や指の機能の発達は、幼児の世界に体験に基づく飛躍的な拡大をもたらす。
 また、この時期における言語の発達は、いっそう広い範囲の対人関係を可能にし、心理的な相互作用(注)をより活発にさせる。
 一方、こうした基本的な身体機能の発達やそれに伴う社会的活動の拡大を誘発させるものとして、環境の要因を無視することはできない。一般に環境という場合、従来、心理学ではこれを2つのものに分けてきた。その1つは、物理的環境であり、他の1つは、いわゆる心理的環境である。しかしながら、一見、物理的な環境要因と考えられやすく、しかし、最も心理的影響をもたらすものとして、人間関係という環境をわれわれは忘れてはならないであろう。人間関係という環境は、そこに、父とか母とか、祖父、祖母、きょうだいという人々が、物理的に存在しているかどうかから出発するものであるし、他方それが当の子どもにとって、どう認知され、どう心理的に影響を与えているかが問題である。しかし、人間関係というものが心理的な関係であり、しかも、相互作用的であるとする立場からすれば、これは単なる物理的環境でないばかりか、心理的環境という多分に個人的なレベルの問題に帰するべきものでないことを認識しなければならない。人間関係こそは、まさにその相互性の中に個人を組み入れ、つねにダイナミックに個人を社会化していく最も影響力の大きい環境といえるのである。
(注)心理的相互作用とは、人間関係における相互作用は物理学でいう作用反作用のような相互作用でないことは言うまでもない。それは、互いに主体性をもった自発的な行動に支えられる相互発展的な相互作用であり、このような相互作用をいう。



3.育ち合い・・・保育園と幼稚園のふれあい保育・・・・

 エピソードに見る、ふれあい保育「お兄ちゃんのようにしたい」『僕がしてあげる』

 3歳児が広告の紙をもってきて「先生、お兄ちゃんたちのように剣を作って」と傍らによってきました。「どんなの」と問いかけると「長いの」というのでクルクルと丸め、「お兄ちゃんたちのようにテープでとめて」というので止めると「ありがとう」と嬉しそうに部屋に戻っていきました。クラスを見ると5歳児の子どもたちがテレビのアニメのヒーローごっこをしていました。3歳児の子も入りたくて剣が欲しくて頼みにきたのです。数人でごっこが始まりましたが、途中で3歳児の子の剣が折れてしまいました。すると、戦いごっこが中止となり『僕が直してやる』と言って5歳児の子どもが、もう一度丁寧に紙を丸めてテープで直しました。3歳児の子どもは「ありがとう」と言って「さあ、来い」という姿が見られました。
 異年齢の子どもの保育を通して様々な体験ができていることが理解できます。3歳児の子どもは、年上の行動を見てまねしたくなる場合があります。また、年下の子どもの行動を見て、自分も意欲をもったり、優しくなったり、可愛がるという心になる時もあるはずです。家庭と異なり、保育という場には、子どもにとって同じ年や年下、年上の子どもたちがいて魅力一杯といえます。同年齢の中で体験も重要ですが自分よりも力があり、おもしろいことを一杯話すこともできる年上の子どもを、モデルにしようとかかわりから出来た喜びを味わい、さらにはライバルとしての意欲に結びつくことにもなります。そして年下とのふれあいから思いやりや自分には能力があるといった自信に気付かせられる場にもなります。
 特に、異年齢保育の重要性の一つは『人や物とかかわる力』に気付いてもらうことです。
 乳幼児の時代から友達に愛されること、そして友達を愛する体験を大切にしたいものです。異年齢児とふれあうことで自分自身を我慢する体験と結びつき、人を愛することで情緒が安定し、穏やかな心になる場が様々な集団から与えられることになります。さらには友達を愛することで人と人との信頼関係ができ、人を愛することがどんなに素晴らしいかという生き方に結びつくはずです。乳幼児をただただ世話すればいいというだけでなく「人とのかかわる力」を育て、愛され愛す態度を養うことが異年齢保育の重要な場といえます。
 今年度の試みとして行う横浜文化保育園と善隣館幼稚園のふれあい保育では、保育園児には幼稚園の同年齢児のクラスと幼稚園児には普段接することがない保育園の乳児(0歳児から2歳児まで)と、ふれあい保育を行う予定です。

(理由)
 保育園は今も昔も変わることなくずっと異年齢の子どもたちが共に暮らしてきたことを考えると、むしろ日常的なものとして考えられ、毎日の園生活の中で大きい子が小さい子を愛しいと思い、小さい子は大きい子に優しくされ嬉しく思い、やがて自分もまた大きいこのようになりたいと憧れ、そんな姿が当たり前として当たり前として見ることができます。幼稚園の子どもたちには園に存在しない0歳児から2歳児までの小さい子たちとふれあうことで、彼等の心に『愛しい』とか『可愛い』という思いが生まれてくれることを期待し、一方保育園の子どもたちには多数の同年齢児と交流することで、遊びの展開を拡げ、新しい仲間づくりに発展してくれることを期待しています。



4.ふれあい保育の実施時期と対象児(クラス)

 保育園および幼稚園の行事等保育に支障のない範囲で実施する予定です。対象児は次のとおりです。

◎横浜文化保育園は、3歳、4歳、5歳の各組(3歳クラスは合同)が対象です。各クラスごとに決まったふれあい保育日に幼稚園を訪ね、同年齢のクラスと一緒に遊び、交流を楽しみます(幼稚園は順次全クラス対象)。

◎善隣館幼稚園は、年長組が対象です。各クラスごとに決まったふれあい保育日に、保育園を訪ね、保育園の2歳児、1歳児、0歳児とふれあい、時には保育士と一緒になって、乳児のお世話のお手伝いをする。